コンビニ人間 【感想・考察】

小説

※若干のネタバレ含みます。

第155回芥川賞を取った傑作作品です。

“コンビニ人間”もはや名前だけでも面白さが伝わってくるタイトルです。

ある意味、世の中でコンビニ人間というのはありふれていると思います。

購入する側、依存する側の立場としてになりますが。

コンビニは食品から衛生器具まで、あらゆる生活必需品を購入することができます。

特に食品類は非常に充実しており、すぐに食べることのできるおにぎりやパンから冷凍食品まで、この忙しい現代社会、3食すべてコンビニで買っているという人も少なくないのではないでしょうか?

そして公共料金の支払いから宅配物のお届け、受取。娯楽関係であるならチケットの購入、支払いもコンビニで行うことができます。

ちょっと割高であることを考慮に入れなければ、家の近くにコンビニがあるだけで取り合えず必要最低限の生活は送ることができるわけです。

そして何よりのメリットは基本24時間営業であること。

この品揃えに加え24時間営業を行う以上は、配送から品出しまで徹底した管理システムがあってこそ成り立つのでしょう。

もはや現代人にとって必要不可欠な存在、それがコンビニと言えるかもしれません。

そんなコンビニで働く人物に焦点を置いた作品となります。

あらすじ

“古倉恵子”は物心ついたころから世間一般でいう子供とはかなりずれた人間でした。

家庭環境は特段悪いことはなく優しい家族にも恵まれていましたが、生まれつき感情が希薄で共感性もなく、非常に合理的な人間だったのです。

感情に左右されず、効率的に合理的に動き発言する様はある見方では正しいかもしれませんが、子供がそんな風にふるまったのでは周囲から孤立するのも当然です。

そんな彼女は家族からも心配されながらも大学まで進学、そしてコンビニでアルバイトを行うこととなります。

コンビニという合理的なシステムに魅せられ、またコンビニ店員という巨大な社会の歯車になれたという実感から大学卒業後もアルバイトをやめることもなく継続。

36歳まで約18年間、コンビニ店員として過ごすことになりました。

本人としては至って今の状況に不満はないが、一般の社会常識からすると結婚をすることもなく、アルバイトを続ける彼女を心配したり、奇異な視線を向けたりします。

そんな中、白羽という男がアルバイトとして採用されることとなり、その出会いを通して古倉恵子の決まりきった日常に変化がもたらされる。

そんなお話です。

主人公 古倉恵子に関して

一言でいうと感情が希薄であり、共感性がない人間というのでしょうか?

こう書くと社会不適合者かに思えますが、実はそんなことはありません。

コンビニ店員という役割に忠実に従っており、その業務を完璧にこなします。

そのうえ感情が希薄であるがゆえに、仕事中は怒りや不安などは決して介在せず、マニュアル通りの対応を行い、職場からの信頼は厚いのです。

コンビニの店長や経営者側からしたら間違いなく最高の人材であるといえるでしょう。

下手に感情がある人間よりもはるかに使い勝手の良い人材かもしれません。

小説を読み進めるにつれ古川恵子は感情や世間などという定義がない、あいまいなものより効率や理論を好んでいるに感じました。

そもそも自分に大きな感情がない以上は他人の感情も理解することができません。

しかし世間と己の、世間の不合理を認識しながらも合わせるという努力は行っております。

生きていくためにはある程度世間に合わせていかなければならないというのは分かっているのでしょうね。

理解はできないが周囲の人間の模倣は出来る。

どういった時に笑った方がいいのか、複数人で会話をする際の共感方法、相槌方法など周囲を観察し自身に取り込み まるでマニュアルのようにパターン化しているようです。

そうやって世間に、コンビニ店員に溶け込んでおります。

ある種、機械、AIのような存在に近いのかもしれません。

白羽という男

情けない男です(笑)

恥知らずという言葉がここまで似合うキャラクターは初めてです。

こんな人間を小説で描写できるのも凄いと感じました。

口を開けば社会の批判を行い、常に上から目線であらゆる人を見下してます。

加えて差別意識の塊であり女性蔑視の発言を女性の前で平気行います。

それなのに根本では女性に好かれたいという思いが根付いているためもうどうしようもないですね。

自分は優秀な、特別な人間だと、それを理解しない社会や世間が悪いのだと。

あるいは本当は自分の惨めさに気づいていながらも、捻じ曲がった性根で年月を重ねすぎたため今更引き返せないだけかもしれませんが。

もちろん、そんな人物ですからコンビニ店員も見下してます。

しかし自分もコンビニ店員であり、その仕事も満足にこなすことが出来ません。

非常に矛盾を抱えている存在で現代の社会は間違っている、正しい認識を持っているのは自分だけとそう豪語しながらも努力することもせず、世間とのつながりを絶つことも出来ず、楽な方へと流されていくだけの男です。

主人公である古倉恵子と非常に対比できる存在であると感じました。

古川恵子は感情がなく、理論と自分に課せられた役割で動いていたのに対して、白羽は感情的であらゆることに文句を言いながらも、何者にもなろうとせず、ただ世間を憎んでいました。

しかしながら、白羽という男の発言にも一理はあります。

小説を読み進めていると白羽という男の滑稽さが強調して書かれているのを感じますが、主人公よりも共感を得やすいキャラクターなのかもしれませんね。

現代の若者の悪い特徴をすべて揃えており、その闇を凝縮した存在です。

感想

結末としてはハッピーエンドともバッドエンドとも取れない終わり方でしたが、私は非常にすっきりしました。

すとーんと綺麗に結末が胸に落ちてきた気がします。

普通とは、社会とは、世間とは改めて考えさせられる作品でした。

基準やルールというのは、大多数が信じる一般常識であったり、職場や隣人などの世間の目であったり、職場のマニュアルであったり、暗黙の了解でもあったりします。

通常、世間の常識というのは幼いころに両親などから教えられたり、人間関係の中で学びます。

そして成長するごとに自分の精神深く根っこまで定着し、仕事、結婚などあらゆる常識に疑問を持つことなく大人になります。

その常識を強制するのは他人からの視線や指摘である以上、それらを一切に気にしない人物というのは確実に存在しているはずです。

集団生活をしている以上、そんな人間は生きづらいのは当然ですよね。

主人公はうつろい変わる常識、正誤がわからない人間関係よりもコンビニという徹底して効率化、理論建てされたシステムを選んだということかもしれません。

そして何よりそのシステムも主人公を、必要不可欠で優秀な歯車を愛していたのでしょう。

あとは所感となりますが、人間というのはある程度基準やルールがなければどこまでの自堕落になってしまう生き物であると改めて実感しました。

だからこそ、人間は自由よりもルールを、規律を求める気持ちもあるのでしょう。

改めて社会とは、世間とは、己は何者なのかを突き付けられる傑作の小説だと思います。

以上、紙魚丸でした。

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